第2回 お粥

 偉い坊主はみな長生きで、人生五十年の時代から平気で七十年くらい生きている。偉いから長生きか、長生きするから偉くなるのか。私のような生臭には考えが及ばない。何食って生きてんだ、と考えるのが関の山で、そりゃ、お粥じゃん、と自分で突っ込むのが精一杯。そういうわけで、立派になるため私は毎日せっせとお粥を食べているが、その効果はまだ出ていない。それを聞いた友人が「それはピントがずれてる。お粥を食べれば偉くなるなら、中国は偉い人だらけだぞ。北から南まで色んなお粥があって、食べまくってるぞ」どんなお粥? 仙人粥?なんていうのもきっとあるに違いない。
 そして、私は、先人たちが経典を求めたように、粥を求め、中国に渡った。ギョーザ中毒事件の真最中、北は極寒の大連からビールのチンタオ、経済特区のシンセン、食通の香港と南に降りた。
 中国四千年の歴史は、いやいや恐るべし。白粥、粟粥、鶏肉粥、牛肉粥、海鮮粥、芋粥、黒米粥、小豆粥、パイナップル粥(本当!)、これに載せる具は、ねぎ、ザーサイ、豚肉ザーサイ、白身魚の身を干してほぐしたもの、牡蠣の燻製、落花生、クコの実、ピータン、塩卵(生卵を殻のまま塩水に2〜3週間漬けた後、作るゆで卵。絶品)。香港に至っては、揚げたお麩みたいなものやビーフン、焼きそばを載せるというか、混ぜるというか、これでもか、のてんこ盛り状態で、混然一体、カオス。椀の中に中国が見えるようで、腕を組んで唸ってしまった。美容と健康と、過食と美食と、永遠の繁栄と刹那の快楽が同居して粥を形作っているのだ。
煮る穀物を米と限らなければ、ブルターニュ地方のそば粥をはじめ、南アジア、西アジア、中近東、ヨーロッパ各地、北アフリカと世界各地に粥はある。穀物と水と火があれば出来るシンプルな料理故、お国柄が出て楽しい。米が取れなきゃ、そば、粟、豆、小麦、とうもろこし、芋、水の代わりに牛乳と何でもありの様相となる。
ただ、粥の存在理由は地域によって異なる。食料不足からくる食べ物を量的に「増やす」行為と飽食の果ての健康を考えて質的に(カロリー摂取量を)「減らす」行為という、正反対の価値があるのだ。
 さて、「僧祇律」というお経の中に「粥有十利」というのがあることを、道元禅師が紹介している。粥には十得があるのだ。1、「色」顔色、肌つやをよくする。2、「力」体力をつける。3、「寿」寿命を延ばす。4、「楽」気分が楽になる。5、「詩清弁」血行をよくし、頭が冴え、言葉が爽やかになる。6、「宿食を除く」胸にもたれることがない(そのまま“宿便を除く”のほうが正しいかも)7、「風除」風邪をひかない。8、「飢消」腹が満たされる。9、「渇消」のどの渇きが癒される。10、「大小便調適」腹の調子(便通)がよくなる。
粥は消化が良く、体も温まることから胃腸が弱っている時や病気の時に食べることが多い。主成分が糖類なので、消化に手間がかからず、即エネルギーとなる。なんだかスポーツ食品みたい。
白粥の100gの胃内停滞時間は、粥の具合にもよるが2時間弱で、そばの約3分の2。腹持ちがしないわけだが、それが体にいいのだ。いつも胃の中に何かあっては胃もたまったもんじゃない。お腹が鳴るのは健康な証拠。腹が減るから、次の飯がうまいのだ。
 中国滞在中は、朝昼は粥三昧、夜は中華食べ放題、チンタオビール飲み放題。しかし、滞在中、胃もたれはなし、二日酔いなし。お通じ問題なし。これは粥のおかげだったか。
ゆえに、毎日の朝食にお粥を盛り込むことをお勧めする。ほうじ茶の茶粥にしたり、ガラスープの素を入れたりすると本当に美味しい。溶き卵を流し込んだり、香の物を添えると激しくうまいのだ。胃にもやさしいし、お通じにも、ダイエットにもお勧めだ。
  蛇足だが、先日、日本のネットで合鴨米なるものを見つけた。田に放った合鴨が虫や雑草を食べるので農薬いらず、おまけに合鴨ちゃんのウンチで肥料いらず。無農薬、無肥料の農法だ。日本的というか、非大陸的というか、でも、米はうまいんだろう、きっと。