茶坊主
<プロフィール>
46歳、出家して早2年。いまだ生臭さが抜けない?ただの口キタナイ中年オヤジ


第10回 ごま

 まるで何もかもが悪い嘘だったかように、パリの春はやってくる。たとえ、世捨人の坊主であっても、悪い気はしない。春夏秋冬のひとつのサイクルが終わり、新しいサイクルが始まる。むき出しになっていた大地やすべての葉を落としていた木々の枝から、一斉に若い芽が吹き出す。セーヌも雪解け水にその水かさを増やし、水源の清水が緩んだことを感じる。着込んでいた人々は一枚一枚そのガードを緩め、身軽になっていく。それは見ているこちらの気持ちも身軽になっていく。
人はこの自然の営みの中で再生されるような気がする。活性が気より始まり、体に至る。必衰に抗い、若さを手に入れ、ボケと戦う。ボケはちょっと余計だが、これは立派な経典にも匹敵する。
あれ、ちょっと待てよ。と坊主は考える。経典のようにインドから来た、その昔漢方薬だった、体に有難く、老化防止にも一役買うというものとは何ぞや。
あ、胡麻です、それ。小坊主が答える。
ごまも胡麻と書くのと、護摩と書くのでは何だか有難さが違ってくる気がする。護摩と書くと和尚らしいし、胡麻と書くとほうれん草のおひたしや、「ねえねえ、お湯は熱いやつをちょっとだけ入れてね、まず先にお湯を入れてよ、そうそう、そんな感じ。それが一番香りが立つんだから」っていう居酒屋の胡麻焼酎を思い出すのは、この坊主だけだろうか。
さて、まずはその種類からみると、皮の色から白ごま、黒ごま、金ごまと分けられるが、その栄養分には大差はない。時と場合に応じて使い分ければいい。お赤飯に白ごまじゃ迫力に欠ける、ということなのだ。
食材としてみると、洗って乾燥させた洗いごま、それを炒った炒りごま、さらにそれをすりつぶしたすりごま、となるわけだが、ごまは皮が固いためそのまま食べても消化吸収は期待できないので、すりつぶして食べることをお勧めする。でも、やっぱりそれも時と場合。お赤飯にすりごまじゃ、絵にならない。お赤飯の話はもういいとして、栄養を考えると料理の直前にすりおろすのがいいらしい。
ごまの栄養について見てみると、まず特筆すべきはその脂肪分。
食品に含まれる脂肪には、飽和脂肪酸(悪者)と不飽和脂肪酸(正義の味方)という2つがある。アメリカでは、商品のラベルに表示する食品分析表にずい分前から飽和脂肪酸の表示が義務化されている。さすが健康志向の強いアメリカらしい。
その2つの脂肪酸だが、肉や乳製品に多い飽和脂肪酸はコレストロールの素とも言え、一方、オレイン酸やリノール酸といった不飽和脂肪酸はコレストロールを溶かし、抑制・排出してくれる。ごまの脂質はこの不飽和脂肪酸が80%を占める。つまり、ごまは正義の味方なのだ。ポパイじゃないが、ほうれん草のごま和えなんていうと、それだけで元気が出る気がする。話が古かったかな?
ごまの力はこれだけじゃない。ごまに含まれるセサミノールには細胞の老化やガン化の促進因子を抑止する抗酸化作用があり、動脈硬化、高血圧、痴呆症を予防するらしい。
あ、やっぱりボケと戦うのだ!
また、細胞の生命を若く保ち、老化を早める物質を抑制するビタミンEをごまはたっぷり含んでいる。ビタミンEのおかげで、かさついたお肌もしっとりというのだから、毎日少しずつ、工夫してすりごまやごま油を食事に使いたい。
こうして考えてみるとやはりごまは食品の「春」といえるのかもしれない。「必衰に抗い、若さを手に入れる」。こんなちっちゃい体にそんな春のような力があるなんて、ごまはすごい。
春に乗り遅れないように、ごまをいっぱい食べて、体を整え、気持ちを整えよう。ところで坊主にも春は来るのかなあ?